2021年5月22日土曜日

#京の都市伝説・探求#【05.トンネル・川と妖怪】

京の都市伝説・探求【05.トンネル・川と妖怪】


 「妖怪」は土地に憑き「幽霊」は人に憑く、という定義があった。それはともかく、異人や妖怪が棲むと空想される世界を異界だとすると、それらのもっとも登場しやすい場所はわれわれの住む世界と異界のあいだにある「境界」であろう。それらの境界は、かつての伝統的な地域社会では国境などにある峠や川であったことが多い。したがって妖怪なども、そのような峠や川によくあらわれた。

 そのうちでも峠は、近年の道路整備などで多くがトンネルでバイパスされるようになった。とすれば、出没する妖怪・幽霊のたぐいもそのトンネルに移行していることが想像される。たしかにトンネルにまつわる現代伝説は、あちこちに多くみられるのである。
 京都で最強心霊スポットと言われるのが「清滝トンネル」で、テレビの特集などでもよく取り上げられ、ここでは様々な怪奇現象が起こるとささやかれている。清滝トンネルは、無数の石仏で異様な光景が見られる化野(あだしの)念仏寺から、五山送り火の夕に鳥居形が灯される鳥居本をへて、急な「試峠」に差し掛かる手前から、峠を避けるために掘られたトンネルであり、愛宕山の登山口になる清滝町へ至る唯一の経路となっている。

 この清滝トンネルは、1929(昭和4)年に愛宕山鉄道として利用されたトンネルだったが、鉄道は廃止され軍用道路となり、現在は府道となっているが清滝隧道と呼ばれることが多い。一車線のみの鉄道だったため、一般道となってもバス一台がギリギリ通れる狭さとなった。一方通行でしか利用できないめ、両方の入り口は交互に変わる信号で制御されている。

 このトンネルは、子供時代に2度ほど通った記憶がある。京都の郊外に路線を展開する京都バスが通っているということで、おそらくはそれを利用したと思われる。一度は、小学生低学年のころ、町内のリクレーションで清滝川ハイキングに父親と参加した時、もう一度は中学生の時に、ワンダーフォーゲル同好会のメンバともに、愛宕山登山のために清滝町の登山口までバスで行った。

 どちらのときの記憶かは定かでないが、バスの窓ギリギリにむき出しの岩肌がせまり、薄暗い照明と谷水が湧き出してひんやりとする雰囲気は、たしかに不気味な気分がした。そのような雰囲気が紡ぎ出したのであろう、トンネル内で女性の悲鳴が聞こえたり、どこからともなくお経が聞こえたりと、不思議な話が噂される。

 また、トンネルに入らないで試峠を登ると、頂上部分には真下を向いたカーブミラーが付けられており、「逆さミラー」と呼ばれている。この真下に行くと、自分の姿は映らず子供の幽霊が見えると噂される。薄暗い時に真下から見上げれば、自分の姿が子供の幽霊に見えるだけだろう、という説もある。

 峠やトンネルと並んで、川も境界とされやすい地形であろう。そして、その境界を往来する場所には橋がある。となれば、橋にまつわる噂も必然的に多くみられる。かつては、橋は難工事であったり、大水に流されることも多い。そのような災害を避けるために、人柱として座頭を生き埋めにした、などという因縁話も多くみられる。

 かつての投稿では、「嵐山渡月橋は振り返れない」という話しが見つかった。

 《この「渡月橋」は「十三参り」に行くとき渡るので有名ですね。お参りで橋を渡るとき「絶対に振り向いてはいけない」という言い伝えがあります(親から聞いたような)。振り返ったらどうなるかは聞いた記憶がありません(だれか知らない?)。自分がお参りするときには振り返ってみてやろう、と企んでいたんですが、どうも連れて行ってもらえなかったようです。
 その後トシゴロになってからこの橋を渡るときには、ベッピンサンを見かけるたびに「振り返って」しまうのは、この時の怨念からでしょうか》

 十三参りは、平安時代の初め、清和天皇が13歳になるとき、嵐山の法輪寺で成人法要をしたという言い伝えに始まる。江戸時代になってから一般化されたようで、大堰川(桂川)の北側嵯峨野方面から「渡月橋」を渡り、対岸の岩田山山麓にある法輪寺虚空蔵菩薩にお参りする。帰り道では、もと来た渡月橋を渡り切るまで振り返ってはならないと言われる。振り返ると、虚空蔵菩薩さまから授かったせっかくの知恵が失われてしまうからだという。

 法輪寺の裏山の岩田山に登ると、野生の猿が餌付けされた岩田山公園がある。ここでは、野生の猿に餌を手渡しでやる経験ができるとして、近年では外国人観光客からも評判になっている。しかしもともと野生猿であるから、登り道でうっかり目を合わせたりすると、飛びつかれたりするので注意が必要だ。渡月橋の都市伝説に妖怪が出てこないではないかと言われそうなので、この猿を妖怪に見立てておこう。

 いや、実はこの大堰川には、河童という水の妖怪が出現するという伝説があった。保津川下りで有名な保津川が、開けて緩やかな流れの大堰川に名前が変わるあたり、渡月橋から数百メートルさかのぼったところに「千鳥ヶ淵」という深みの場所がある。いまは水泳禁止になっているが、かつて泳いでいて何人もがおぼれ死んでいる。川底から河童が脚を引っ張って沈めるというのである。

 千鳥ヶ淵付近で急な淀みになり、複雑な水流と極端な水温の冷暖が入り交じり、心臓まひや脚の痙攣で溺れてしまうというのが実態だろうが、もっぱら妖怪河童の仕業だとされている。そして千鳥ヶ淵は、自殺の名所という別の伝説をもつ。

 伝説をさかのぼれば、平家の平清盛の娘の横笛(よこぶえ)が、斎藤時頼というイケメン武士に恋をしたという話しに行きつく。横笛は彼に会いたくて会いたくて追いかけて行くが、彼は出家して滝口入道と名乗っていた。想いを遂げられなくなった横笛は、川に身を投げて入水自殺してしまう。その場所が千鳥ヶ淵だという。それ以来、千鳥ヶ淵は自殺の名所となったとされている。

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