2021年5月19日水曜日

#京の都市伝説・探求#【02.宝ヶ池の縁切り伝説】

京の都市伝説・探求【02.宝ヶ池の縁切り伝説】


 深泥池からひと山はさんだ東に「宝ヶ池」がある。深泥池が陰だとすれば宝ヶ池は陽、まったく対照的な二つの池が並んでいる。昭和40年ごろに、宝ヶ池の対岸に京都国際会館ができて、北山通が整備され、松ヶ崎方面から国際会館のある岩倉側へ抜けるトンネルが完成した。

 合掌造りをイメージした国際会館と、その背景には比叡山がそびえ、宝ヶ池自体も自然公園に整備された。そのような絵葉書のような景観の中で、池には従来からの手漕ぎボートにくわえ、カップルが並んで座れるペダル式ボートも配置されて、池に浮かびながらの景観も楽しめる。

 だがしかし、この場面には落とし穴がある。実はこの「宝ヶ池」でデートしてボートに乗ると、必ずそのカップルは別れるという都市伝説があるのであった。ストーリーのある都市伝説というよりも、いわばジンクスのようなものであるが。

 実は、かつてネットで蒐集した都市伝説のなかに、すでに「縁切り伝説」の投稿があった。まずは有名な井の頭公園の別れ伝説が投稿された。

《カップルでお参りしてはいけない場所 …ってゆーと、関東でメジャーなのは、通称「縁切り寺」だと思うのですが、バラバラ事件のあった井の頭公園の弁天様も、霊験あらたかだそうです。もともと弁天様は、未婚の女性の神様なので、夫婦や恋人が揃ってお参りすると嫉妬されるので、良くないとか。正しいお参りのしかたは、男女バラバラに、時間差をつけて行くのだそうです。》

 これに触発されて、幾つもの「縁切り伝説」が投稿された。それにあわられた場所をすべて羅列してみる。

<<東京井の頭公園弁天池・埼玉大宮公園ひょうたん池・東京ディズニーランド・津田梅子のお墓・関東の通称「縁切り寺」・京都嵐山の渡月橋・京都植物園・大阪万博公園エキスポランド・神戸ポートピアランド・名古屋東山公園「東山タワー」・太宰府天満宮・伊勢神宮>>

 どれもこれも各地の行楽観光の名所がずらりとならんでいる。若い男女がデートをする場所なのだから当然のことである。また、その多くのカップルがその後なんらかの理由で別れていくのも自然のながれであろう。とすれば、多くの観光名所に縁切り伝説があるのになんの不思議もない。

 しかしここでは、そのような噂の存在の合理的な理由をみつけるのが狙いではない。むしろ噂とは、しばしば非合理な状況から発生し伝播していくものである。またそのような非合理性にむけて、それなりの納得をあたえる役割をももっていることが多い。

 恋愛に終局があるのは事実だとしても、いままさに恋愛中のカップルにとって別れにおもいをむけるのは不合理なことだ。また恋愛そのものが多くの偶然によりはじまるのと同じく、両者とも納得のいくような別れがあるわけでもないだろう。これらはそもそも、恋愛そのもの自体にはらまれている偶然性であり非合理性であろう。

 とすれば、そのような偶然性に支配されている恋愛に、さまざまな占いやジンクスがともなっているのも不思議ではない。恋い占いに熱中する男女があれば、その一方で別れにささやかな理由づけをしてくれるジンクスも必要なのかもしれない。水の上に浮かぶ木の葉のような不安定な状況では、タロットカードの恋い占いに願いをかける少女もいるだろうし、弁天さまの嫉妬に別れの原因をみつけて苦笑する男の子がいてもおかしくはないであろう。

 投稿中で、別れ伝説を取りあげた資料も紹介された。
《カップルが別れるといわれる場所についての噂を、弁天さんなどの女の神様に起源を求めたりしていますが、おもしろいのは噂を集めたデータです。関西では嵐山・エキスポランド・ポートピアランドなど、東京近辺では井の頭公園・東京ディズニーランドなど、あと伊勢神宮などがあげられています。ボートがあるというのがキーになっているでのはという推理をされています。》

 この資料にはまだ直接あたる機会がないが、ボートのある場所という指摘は興味深い。前にあげたジンクスのある場所をざっと見わたしても、ほとんどが水とむすびつけることができる。そして、その多くには遊覧用のボートがあるようだ。さきに恋愛心理を水にただよう木の葉にたとえてみたが、ボートそのものが木の葉と見なすこともできる。恋愛の不安定な心理状態とボートをむすびつけるのも、ひとつの視点ではなかろうかとおもう。

 冒頭に掲げた「宝ヶ池縁切り伝説」は、まさしくこれらの条件にぴったり当てはまる典型的な「縁切り伝説」だったのである。

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