2021年5月10日月曜日

#京の食べ物探索#【04.鯖寿司とバッテラ】

京の食べ物探索【04.鯖寿司とバッテラ】


 京都紫野の今宮神社では、毎年5月の5日から15日にかけて、「今宮祭」が行われる。紫野御霊会に起源をもち、京都を代表する機業地である西陣の祭礼として発展したもので、近世には祇園祭にも匹敵する盛大な祭りだった。

 子供の頃、今宮神社の氏子区域住む伯母が、この今宮祭の時期になると、仕出し屋「さいき」に作らせた「鯖寿司」を持ってきてくれた。竹の皮に包まれ、大きな脂ののった〆め鯖を丸ごと使った豪華な鯖寿司で、大阪のバッテラを始め、各地に鯖を使った寿司はあるようだが、私にとっては、これが唯一無二の鯖寿司だった。

 海から遠く離れた京都の町では、日本海側の福井県若狭地方で水揚げされた真鯖に一塩して、大至急で山を越えて運ばれた高級魚であり、その道筋は「鯖街道」と呼ばれた。鯖寿司は有名な京料理の一つでもあり、古来から京都の家庭では、祭りなどの「ハレ」の日に食されたご馳走であり、まだ冷蔵庫のない時期には、塩と酢でしめた保存食品でもあった。

 一方、同じく鯖を使った大阪のバッテラは、その起源をまったく異にする。明治半ばに大阪の寿司店が、コノシロの片身を開き舟形にしたものを使った寿司を作ったのが、その始まりといわれ、コノシロを開くと尾の方は細いので、飯も片側を尖らせたその姿が小舟に似ていた。このことから、ポルトガル語の 「バテイラ(小舟/ボート)」からバッテラと呼ばれるようになったとされる。その後、コノシロの価格が急騰し、サバを使うようになったのが、今の「バッテラ」なのだとか。

  バッテラは、酢飯に酢締めにした鯖を乗せ、さらに薄く削られた白板昆布を重ねた押し寿司で、鯖の身が足りない部分には、へいだ身を添えるなど、あまりこだわりのない作り方で、庶民の寿司とされている。

 一方、鯖寿司は、酢飯に立派な真鯖の酢締めした半身をのせ、巻き簾や布巾で形を整えたもので、羅臼昆布のような、やわらかい高級昆布で包んだものが多い。バッテラのような枠で押す工程がなく、四角い切り口になるバッテラに対して、鯖寿司の切り口は角のない丸みを帯びた形となる。

 かつては庶民の家でも、祭礼などハレの日のために鯖寿司を作っていたが、その風習も廃れ、祇園の「いづう」や「いづ重」などの高級鯖寿司が、贈答用に用いられることが多くなっている。これじゃ、われわれ庶民は気軽に鯖寿司を食べられない、ということで、安いノルウェー産塩鯖で「焼鯖寿司」を作ってみた。まあ、なんとかなる(笑)


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